めようとはしないだろう。

めようとはしないだろう。

めようとはしないだろう。

ここで無理に廃嫡を迫れば、不忠、または謀反を疑われる可能性もあり、重臣たちも迂闊には動けなかった。

「では、打つ手はないと申されるのか !?」

「殿、大殿へのご説得が無理とあらば、もはや時に身を任せる他ありますまい」

「時に身を任せるとは、どういう意味です?」顯赫植髮

「申すも恐れ多きことながら、殿のお世継ぎの座が揺るがぬのは、大殿ご在命であればこそのこと。

大殿という後ろ楯がなくなれば、殿のお味方は平手殿のみとなり、跡目問題の流れは自然と信勝様に移りましょう」

「佐渡守様、そのような仰せは大殿に対してあまりにも…!」

重臣の一人が遺憾そうに声を上げると

「構わぬ!──林殿、続けてたもれ」

土田御前は窘めるのを制し、秀貞に先を求めた。

「実はここだけの話でございますが、ご本家たる清須の織田信友様は、密かに信勝様を支持あそばされておりまする」

「何と、清須が信勝殿を !?」

「左様でございます。我らだけでは心許のうございますが、ご本家のお力添えに加え、

守山城の織田信光様など、ご親類の方々のご支持を多く集めることが出来れば、後はこちらのもの。

殿がお世継ぎの座から降りざるを得ない状況に追い込み、正式に後継のお役目を信勝へ譲渡させるのです」

力強い秀貞の言葉に、硬い土田御前の表情が一気にほころんだ。

「嗚呼、林殿!そなたは今わらわに希望をくれましたぞ。

確かに、いくら嫡男とはいえ、家臣らに加え織田家一門が反対の意を示せば、さすがの信長殿も御家督を手放さぬ訳には参りますまい。

親族からも家臣からも信頼のない主君など、もはや主君とは言えませぬからなぁ」

そう言って土田御前は軽快な笑い声を響かせた。

「されど御前様。これはあくまでも、全ての条件が満たされて初めて叶う策でございます。

一門の方々への事前の根回しも必要となる上、肝心の大殿はご健勝そのもの…。

この策を実行するならば、大殿が天命を全うされるその日まで、我々も辛抱強く待たなければなりませぬ」

「…そんな…!いつになるとも分からぬその日を、ただひたすら待てと申すのか !?」

「人の天命は神、仏のお決めになられること。我らにはどうすることも出来ませぬ」

冷静に告げる秀貞の態度が、興奮の中にある土田御前の癇に障ったのか、彼女はドンッと片足を踏み鳴らした。

「待てぬ! …そ…それならば、毒でも盛って信長殿を始末してしまった方が早いではないか!さすれば信勝殿が──」

そこまで言って、土田御前は急に口を閉ざした。

秀貞らも、聞いてはいけない言葉を耳にしたとばかりに思わず顔を強張らせる。

「……ぁ…」

土田御前は震える手で口元を押さえながら、先程の自分自身の発言にゾッとしていた。

何故なら彼女は、これまで一度として信長の死を望んだことはなかったからだ。

品性もなく、自分の意にまるで従おうとしない信長のことは廃嫡を願うほど深く嫌っているが、

それでも、自身がお腹を痛めて産んだ我が子には変わりないのである。

故にどんなに憎くても、彼の逝去だけは望まなかった。

それどころか、叶うものならば母として息子を更正させたい気持ちすらあった。

その為、勢いとはいえ、信長の死を口にしてしまった自分自身が信じられなく、土田御前は大変なショックを覚えていた。

Komentarze

Dodaj komentarz
do góry więcej wersja klasyczna
Wiadomości (utwórz nową)
Brak nieprzeczytanych wiadomości