声にならなかった。

声にならなかった。

声にならなかった。

でもふくは間違いなく首を振ったんだ。

新平はもういないと…。

「嘘や…嫌や!何で!?何で私やないん!?私が死ねば良かったのにぃ…。」

三津は布団に突っ伏して号泣した。

「みっちゃんそんなん言わんとって!

兄ちゃんが悲しむから…好きな子守って逝ってん…ちゃんと役目果たしてんから…。」

ふくは三津を責めたりはしなかった。

自分も兄が大好きだし,肺癌症狀為背痛咳嗽? 病徵逐個睇 同じように,それ以上に兄を愛した三津の痛みが分かっていたから。

「みっちゃんお願いやから笑ってくれへん?兄ちゃんが安心してくれるように笑って?」

泣いてぐちゃぐちゃの顔でふくは笑った。

『新ちゃんが安心してくれるなら笑わな…。』

涙が止まる訳はないが三津は約束した,新平の為にも笑ってると。

「みっちゃんが生きて笑ってくれてたら,兄ちゃんも私もそれだけで嬉しい。」

そう言って一緒に笑った筈のふくも死んだ。

新平の後を追って喉を掻き斬ったと聞かされた。

三津はまた一人になった。

塞ぎ込んで自暴自棄になり何度二人の後を追おうとしたか。

命を投げ出そうとする度にふくとの約束を思い出した。

生きて笑っていれば新平とふくは喜んでくれる。

『だったら笑うしかないやんか…。』

そんな約束だけ残して逝った二人はずるいと思ったが,三津は笑う事を決めたんだ。全てを話し終えたら何だか胸の靄が晴れた気がした。

思い出したくない過去だったのに不思議だ。

「二人を亡くしてから外に出なくなったから道も分からんくなったし,人と会うのも避けてました。

外に出て晒し首に遭うのも嫌やったし。」

最後には冗談ぽく笑って肩をすくめて見せる余裕があった。

『桂さんに話して良かった。』

またこの人に救われたのかもしれない。

桂を見つめる目には気付かないうちに素直な感情が含まれていた。

「彼は三津さんが幸せになる事を願ってると思うよ。

だから人を想う事に臆病にならないで。」

三津の瞳に吸い寄せられるように桂は腰を上げて頬に出来た涙の筋を親指の腹で拭った。

「はい…。」

新平が自分の幸せを願ってくれているなら何も恐くはない。

素直にそう思えた。

二人で穏やかな笑みで見つめ合っていれば,三津は強い力で右腕を掴まれた。

驚いて見上げると不敵な笑みを浮かべる吉田と目が合った。

「あ…。」

その存在をすっかり忘れていた。

「帰るよ,桂さんはお忙しいんだ。」

有無を言わさずに引っ張って立ち上がらせた。

「稔麿,もっと優しくしないか。三津さんすまないまた今度ゆっくり時間を…。」

桂が三津に手を伸ばしたが,届く前に吉田が三津を抱き寄せた。

「客人がお見えですよ。」

にやりと笑い戸を開ければ吉田の言う通り男が二人立っていた。

「じゃあ私は迷子を送り届けますから。」

吉田は三津の腕をぐいぐい引いて部屋を出た。

「稔麿?どこへ行く,話しはこれからだろう?」

男達の呼びかけにも吉田は口角を上げるだけで何も言わずに,三津を引きずるように廊下を歩いた。

「え?話し合いなん?

ごめんなさい私迷子なんです!」

そんな大事な場にお邪魔していた事に今更気付かされたが吉田がいなければ帰れない。

とりあえず謝るしかないと三津は引きずられながら二人に叫んでいた。

三津は足をもつれさせながら旅籠を後にした。

来た道を覚えていないが故,吉田に着いて行くしかないのだが,甘味屋に向かっていないのはすぐに分かった。

「どこ行くんですか?」

無言の背中に問いかけると,

「折角だから散歩でもしようか。」

振り返ることなく言葉だけが返ってきた。

手首を掴む力加減から拒否権はないと悟った。吉田が三津を引きずってやって来たのは前に二人で並んで団子を食べた河原。

草の茂みを掻き分けて腰を下ろした。

「戻らなくて大丈夫なんですか?

大事な話があったんじゃ…。」

三津は気を遣ってみるのだが,

「それは俺といたくないって事?」

棘のある言い方をされてしまい,三津は眉尻を下げた。

「吉田さんさっきから変…。」

手首を掴む力も背中から感じた威圧感も並みじゃないのは三津でも分かった。

「桂さんを前にして俺の存在忘れてた子がよく言えたもんだ。」

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