と、副長をめぐって

と、副長をめぐって

と、副長をめぐって熾烈な略奪劇をくりひろげそうなほど、副長のことを大好きになったようだ。

 ちなみに、榎本、大鳥、副長の三人が、今後大活躍するのである。

「あ、ああ。大鳥さんか」

 副長は、顯赫植髮 やっとショックから立ち直ったらしい。同時に、思いだしたらしい。

 どうやら、胸元に抱きついている大鳥にハグをし返すかどうか迷っているようである。

 その副長の躊躇は、腰のあたりまであげられた腕によってしれた。

 結局、副長はハグをしなかった。腕が大鳥の肩あたりまであがってその肩に掌をのせると、そのまま引き剥がしにかかったのである。

 この場にいるどの隊の隊士も、その二人をただだまってみつめている。

 どの隊士のにも、突然の大鳥の奇行に驚愕というよりかはひきまくっている感がありありと浮かんでいる。

「やぁやぁ、土方君っ!」

 大鳥は、自分の肩にのせられた副長の掌をとって強く握り、それをぶんぶんと音がなるほど上下に振りはじめた。は、めっちゃうれしそうだ。一方、副長の

 かれのは、苦虫をつぶしたようになっている。

 どうやら副長は、榎本や元新撰組参謀の伊東すなわち『おねぇ』同様、マウンティングが効かぬ相手は苦手らしい。

「ここで会えたがってやつだね。これからは、ともに行動しよう。いやー、土方君。誠に心強いかぎりだよ」

 副長の心のなかは兎も角、大鳥はテンションが超絶上がっているようだ。いっちゃってるっていってもいい。

 でっ、そんな感じで副長に提案した。いや、勝手に決めてしまったようだ。

 副長の眉間に、数えきれないほどの皺が濃く刻まれた。

 副長は、いまの大鳥の提案にどう応じるだろう。

 この場にいる全員が、副長の反応に興味津々である。

 って、おれが一番興味津々だったりして。

「そうだった。わたしとしたことが、肝心なことを失念していた」

 大鳥は、そういいながら副長の両掌を解放した。それから、ピシッと姿勢を正す。

「土方君。近藤さんのこと、心よりお悔やみ申し上げる。近藤さんには一度しか会えなかったが、これまで会ったいかなるであった。ぜひとも一度、酒をくみかわしたかったよ」

 大鳥の表情があらたまっている。

 かれは、そういうとぺこりと頭をさげた。

「あ、ああ。ど、どうも」 副長が気おくれするなんて……。

 振りまわされまくっているのもめずらしい。

 

 これはもう、おねぇ以来の快挙かもしれない。

 榎本もたいがいであるが、大鳥はその斜め上を爆走しまくっている。

 いやー、これはこれは。大鳥土方コンビのこれからが愉しみでならない。

「大鳥先生。お悔やみの言の葉、痛み入ります。と会津遊撃隊の方々は、明日、大平口に出陣する予定でございます」

 俊春がみるにみかね、二人にちかづいて告げた。

 まずは副長にかわって近藤局長のお悔やみにたいする礼を述べてから、これからのことを説明する。

「ああ、なるほど。了解した。も同道させていただくよ。土方君、きみのお手並みをじっくり拝見させていただくとしよう」

 大鳥は、漫才師の「鳳〇助」とは似ても似つかぬに、人懐っこい笑みを浮かべた。

 似ているところがあるとすれば、二人とも小柄なところであろうか。

 その間、副長はずっとだまったままである。ほかの隊との折衝は、俊春に全面的に任せるつもりなのであろうか。

「なにゆえだ?」

 そのとき、副長がやっと口をひらいた。

「なにゆえ?土方君、なにゆえってどういう意味だい?」

 大鳥は、副長の謎めいた、ってかわけのわからぬ問いにきょとんとしている。

「大鳥さん。あんたは幕臣であろう?その幕臣のあんたが、なにゆえと行動をともにしたがる?おれたちは、京で会津藩の庇護のもと暴れしてきたが、あっちにいる会津藩の諸隊ですら、おれたちをただのごろつき程度にしか認識していない。それが、なにゆえあんたはにかかわろうとする?」

 副長は、苦々しげにいった。その副長の形のいい顎が、向こうのほうからこちらをみている会津遊撃隊を指し示す。

 さすがに、途中から声のトーンを落としていた。

 会津藩のくだりの部分が会津遊撃隊にきこえれば、それでなくともしっくりいっていない関係がさらに悪くなってしまうであろう。

「ええっ?」

 大鳥の小柄な体が、文字どおり飛び上がった。

 小ぶりの

 さしもの副長も、その大鳥の豹変ぶりに戸惑っているようである。

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