それから、安富や沢や立川も
俊春自身の体のことも心配だが、それでもかれが伊庭を護り抜くことは間違いない。
せめてこのひとときだけでも、心穏やかにすごしてほしい。
心からそう願ってしまう。
五稜郭にちかくなってきたころ、お馬さんを俊冬と俊春にちかづけた。
二人は、すでにおれの気配を感じている。
俊冬が副長似のイケメンをこちらにさっと向け、また前方にそれを戻した。
そっと俊春をうかがうと、俊冬の背にもたれたまま瞼を閉じている。
眠ってはいないんだろうけど、瞼を閉じているところをはじめてみた気がする。
ってか、俊春は瞬き以外で瞼を閉じることができるんだ。
人体の秘密でもなんでもない。の当然の動作なのであるが、かれにいたってはそんな当たり前のことでもシンプルに驚いてしまう。
「本当に大丈夫なのか?」
俊冬に尋ねてしまった。
「きみは、疑り深いな。じゃあ、もしもわんこが大丈夫じゃなかったら、きみが八郎君を護るのか?きみが、迫りくる大軍を陽動攪乱したり、将官クラスを脅したりすかしたりしてくるのか?」
俊冬は、おれができるわけのないことを平気で並べ立ててきた。
ったく、俊春を心配しているだけのことなのにかわいくないよな。
「大丈夫だよ、大丈夫。ちょっと力をつかって疲れただけだから」
そのとき、俊春が俊冬の背中から上半身を正しながらいった。
その物憂げな声が、やけになまめかしい。
「だから、見ないで。いやらしいことをかんがえないで」
俊春がいつものようにあらぬ非難をたたきつけてきた。
だから、ちょっとだけホッとした。
「それで?鉄のことか?」
「わが道爆走王」俊冬が尋ねてきた。
そう。史実に従うなら、今日、市村はおれたちから離れることになっているのである。
「バタバタしていたから、かれについて話ができなかったんだ」
俊冬と俊春のお馬さんが速度を落としたので、おれもそれにならった。
「どうした?」
すぐさま最後尾にいる島田に追いつかれてしまった。
副長や伊庭たちは、おれたちに気がついていないようである。どんどん差が開いてゆく。
「鉄のことなんです」
副長たちがみえなくなったころには、おれたちのお馬さんたちはあゆみにかわっていた。「鉄?ああ、そういえばを去るようなことを申していたな」
「ええ、島田先生。かれは、副長から佩刀である「兼定」とムダにカッコつけているを託されるのです。実家に届けるようにと。史実では、二股口の戦いのあった翌日、つまり今日箱館を脱出することになっています」
「なんだって?副長は、しっているのか?」
「伝えています。二股口へ出陣する日の朝、鉄本人にも伝えました」
「でっ、副長と鉄はなんと?」
島田は勢い込んで尋ねてきた。
お馬さんたちは、その脚を止めてしまっている。
島田に、ことの顛末を手短に説明をした。
副長は、市村を手放したくないのに依怙地になってしまっていて、市村を脱出させようとしていること。そして、市村は離れたくないと思っていること。
島田は、馬上でごつい顎に太い指を這わせ、かんがえこんでしまっている。
その島田に、田村は終戦まで蝦夷に残ることを補足説明しておいた。
「まあ、鉄はいきたがらぬであろうな。気持ちはよくわかる。わたしも、かれ一人でいかせるのは……」
島田は、やっと口をひらいた。
結局、かれもまた市村をいかせたくないわけだ。
情がうつっている。当然のことかもしれない。
「銀が残るのであったら、別にかまわぬではないか」
島田は、さらにいい募る。
「「兼定」とは、実家に届きさえすればいいのであろう?ならば、蝦夷にいる商人に頼んでもいいのではないか?」
おれたちがだまっていると、かれはめずらしく一方的にアイデアをだしてきた。
かれもまた、市村をよほど手放したくはないのである。
「おっしゃる通りです」
まず同意した。
それから、安富や沢や立川も、それぞれ日野を訪れる旨を伝えた。
「であれば、ますます鉄がいく必要がなくなるではないか」
「ええ。最初は、副長が意地をはって史実どおりにするつもりなら、鉄と銀を商人かだれかにでもあずかってもらおうって話をしていたんです。だいいち、拒否ってる鉄を説得することのほうが大変じゃないですか」
「それはそうだ。植髮 それであれば、商人にでもあずかってもらい、最悪の事態になれば、二人をそのまま逃すよう頼んでもいいかもしれないな」
島田は、俊冬と俊春に
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