を合わせたまま

を合わせたまま

を合わせたまま、はにかんだ笑みを浮かべる。

「さぁゆけ。海江田先生がおまちだ。おぬしできめてしまえ」

 あまりの感動に、脫髮維他命 お礼の言葉も決意の表明もできない。

 そのとき、左脚にどしんとなにかがぶつかった。ぐらつくほどではないにしろ、感動しまくっていての不意打ちに、思わす「きゃっ!」ってでそうになった。

 ううっ・・・・・・。

 相棒が俊春とおれとの間で、四つ脚踏ん張ってみあげている。しかも、俊春をおれから遠ざけるべく、じりじりと後退していっているではないか。

 ちょっ・・・・・・。そこは向きが反対なのではないのか?フツー、相棒の相棒たるおれが、俊春から遠ざからなきゃいけないのではないのか?

「はっはは!兼定にファイアーされてる。めっちゃ草だ」

 西郷よりもエラソーに胡坐をかいている野村が、事実無根の誹謗中傷を投げつけてきた。

「あのですね、ぽち。死んだ親父と交信して感じてくれるだけでなく、生きている相棒を感じて説得してもらえませんか?」

 おれはいま、ぜったいに情けないになっているだろう。

「ふむ。おぬしの亡くなった父上は、いい返してこぬ。が、おぬしの生きている相棒は、いい返しまくってくる。すまぬが、おぬしの期待や希望をかなえることはむずかしい」

「そうですか・・・・・・。わかりました。とりあえず、いまは愉しんできますよ」

 そうだ。相棒とはこれからも付き合える。おそらく、であるが。まだ決定的ではない。

「「離婚届け」って、役所にとりにいくんだよね?」ってきかれた程度のはず。

 気を取り直し、木刀を片掌で軽く打ち振りながら、海江田へとちかづきはじめた。

「なんだかんだいいつつ、主計にやさしいじゃねぇか。ええっ、新八、ぽち?」

「副長のおっしゃるとおりですな。いつもさりげなくかばったり、みまもったりしていらっしゃる」

「なにを申すか。土方さんは兎も角、魁、おまえもであろう?」

「目くそ鼻くそ、という感じですな」

「いまの例えはサノバビッチだぞ、ぽち」

 永倉たちのそんな会話を背でききながら、ますますヤル気になるのだった。

「海江田先生、よろしくお願いします」

 上半身を折り、さわやかに挨拶してみた。

 海江田は、無言のままの一礼でもって返してきた。

 かれは姿勢を正し、遠間までひいた。おれはその場で正眼に構える。不思議といつものように緊張はない。いつもだったら、はじめて対戦する相手だとたいてい緊張する。ってか、どんな相手だって大なり小なり緊張してしまう。

 学生時代や警察時代、公式非公式を問わず、試合のときには相手がだれかわかっている。しかも公式、つまり全国大会レベルの試合になれば、出場者は何年も連続ででてくるようなモンスターである。そういうモンスターたちは、たいてい動画が残っていて、それをみることができる。

 ゆえに、その相手の過去のデータや動画で、予想をすると同時に心構えができる。 が、この時代はちがう。

 たしかに、現代に名を残している人物なら、ウィキなどから流派、それから皆伝や目録っていうことはわかるかもしれない。が、それだけである。それ以上、たとえばどんな攻撃をしてどんな技が得意なのかなどという詳細は、よほどのことでないと残ってはいない。

 ぶっちゃけ、剣をまじえながら探ってゆくしかないのである。もっとも、それが当然のこととはいえ当然のことである。

 つまり、現代が便利すぎるのだ。

 しかし、今回は永倉がチャンスをくれた。さきほどの立ち合いは、おれにとって対戦相手の動画をみるよりなん百倍もためになった。

 それもまた、当然のこととはいえ当然のようにことである。なぜなら、めっちゃ生なんだから。

 って、そんなことをかんがえるほど、ヨユーがあるのか?

 いいや、じつはそんなもの微塵もない。正直、いまはまず海江田の初太刀をどうするかで頭がいっぱいになりつつある。

 どうでもいいことをかんがえてしまっていたのは、ただの現実逃避である。

 初太刀を永倉のように受け、しかも弾き飛ばすだけの腕も膂力もない。永倉は、そのどちらも半端ないからできたわけだ。おれだったらきっと、受けた時点で力負けするだろう。そして、自分自身の木刀か海江田の木刀が体のどこかにあたり、打撲を負うだろう。いや、骨にひびが入るか、下手をすると骨折してしまうかもしれない。

 示現流の初太刀は、それほどまでにすごいのである。

 なにせあの近藤局長が、「受けてはならぬ。避けよ」と戒めたのである。

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