沖田先生、ごめんなさい。

沖田先生、ごめんなさい。

沖田先生、ごめんなさい。私、貴方に隠し事をしていました。貴方の忠告を聞かずに出て行ってしまいました。

 もしももう一度会えたのなら、受け止めてくれますか。 桜司郎が目を覚ましたのは数日後のことだった。目を開けると、そこには知らない木目の天井が広がる。喉が乾いて声が出ないのか、掠れたそれが漏れた。身動ぎをすれば、背中と左脇腹の痛みに顔を歪める。

 そこへガラリと戸が開き、顯赫植髮 湯気の立つ桶を持った女性が入ってきた。桜司郎と女性はパッチリ目が合う。

「あらぁ、目ェ覚ましちょる!旦那様ぁ、旦那様ぁ!」

 廊下に桶を置くと、女性は声を上げてパタパタと駆けて行った。すると、直ぐに板を踏み抜く音と共に高杉が部屋に飛び込んでくる。久々の顔触れに桜司郎は目を見開いた。

「桜花!……おうの、薬湯じゃ!薬湯を持って来い!」

 高杉に言い付けられ、おうのと呼ばれた女性は直ぐに湯呑みを持ってくる。痛みを堪えながら何とか起き上がると、桜司郎はそれを飲んだ。何度か咳払いをすると、やっと声が出るようになる。

「た、高杉さん、何故……。此処は一体……」

 まだ高熱があるのだろう、身体が重く怠かった。座って居られず、ふらりと横になる。

「久しいのう。此処は、長州の萩じゃ」

 長州の萩、と頭の中で繰り返した。ぼんやりとしながらもそこが何処なのか理解するなり、驚きの表情を浮かべる。

「ち、長州……!?」

 あれ程近藤らが入りたがっていた長州に居ることと、何故高杉が目の前にいるのかという疑問が頭の中で膨れ上がった。しかし、高熱かつ数日ぶりに目を覚ましたばかりの脳では処理しきれない。

「桜花、もう少し良うなったらまた話そう。今は身体を休めるんじゃ」

 口角を上げると、高杉は桜司郎の頭を撫でた。その手はひんやりと冷たい。桜花なんて久々に呼ばれたなと思いつつ、再び微睡みの中へ落ちていった。

 高杉は寝入る桜花の姿を見ると、別室に向かう。決して広くはない村塾だが、現在は閉塾しているため元塾生のよしみで使わせて貰っていた。

 襖を開けて中へ入ると、端正な顔立ちをした男が眉間に皺を寄せて腕を組んでいる。明らかに虫の居所が悪いと見て直ぐに分かった。

「桂さん──いや、今はさんじゃったか。そねえに難しい顔してどうした」

 桂小五郎は苗字を木戸へ変えている。高杉は木戸の前に胡座をかいて座ると、膝に頬杖をついた。

「もうすぐ、との会合だと思ってね。臓腑が痛むよ」

 その事か、と高杉は視線を畳へ移す。長州藩内では密かに幕府を倒す、つまり倒幕へと世論が傾いていた。だが、それは長州藩だけでは成らない。その為にはどこかの強い藩の力が必要なのだ。

 そこで目を付けたのが同じ倒幕を目指す薩摩藩である。土佐藩のが仲介役として入り、両藩が同盟を組めるように計らっていた。

「僕は……薩摩の芋どもは許せん。思い出すだけでも腹立たしゅうてならん。死んでいった者に何と言えばええのか」

 だが、長州に対して薩摩が行ってきた仕打ちを考えればどうしても心からの賛成とはならない。八月十八日の政変で長州が京での

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