甲斐は、友人の私から見
甲斐は、友人の私から見ても本当に良い男だと思う。
彼氏がいる依織を、甲斐は長年想い続けてきた。
少しもよそ見することなく、us stock trading 依織だけを見てきた。
その間、彼氏から略奪しようと企むことはなく、ただずっと依織のことを好きでい続けた。
周りが呆れてしまうくらい、誠実で一途。
甲斐のことを悪く言う人なんて、一人もいない。
でも、こういう男が本気を見せたら、きっと女はそのギャップに惹かれる。
既に甲斐は、スタートラインに立っているのだ。
それに比べて私の立ち位置は、少しも変わっていない。
私だけ、動けない。
「……そんな悠長なこと言ってたら、他の男に奪われちゃうかもよ。依織、合コンとか行ったら多分モテるだろうし」
「お前、絶対七瀬を合コンなんかに連れて行くなよ」
「依織にもし頼まれたら、セッティングしちゃうかも」
なんて返してみたが、もちろん依織のために合コンをセッティングする気など微塵もない。
そういう場で出会った男に、依織を渡したくないからだ。
それなら、まだ甲斐の方がマシだ。
性格の良さを知っている分、依織のことは安心して任せられる。
でもやっぱり、しばらくは新しい恋なんてしないでほしい。「でも桜崎って、本当に七瀬のこと好きだよな」
「え?」
「いつも自分のことより七瀬のことばっか心配してるじゃん。友達思いで、意外と良いヤツだよな。まぁ、口が悪いところは直した方がいいと思うけど」
「は?意外とって言葉、余計なんだけど。甲斐のくせに生意気言うな」
いつものように突っ込み、どうにか平常心を保てたけれど、一瞬私の気持ちがバレてしまったと思い息を飲んだ。
でも甲斐は、私の方が長い期間依織を想い続けている事実に少しも気付いていなかった。
知られたところで、甲斐なら絶対他人に言いふらすようなことはしないだろう。
気持ち悪いだなんて思わずに、肯定してくれるはずだ。
それは、わかっている。
でも、心が他人に知られることを拒否しているのだ。
一生、自分の心の中に留め続ける。
友達思いの良いヤツを演じ続ければいい。
それに、私の演技は完璧なはずだ。
一番近くにいる甲斐や青柳に気付かれていないのだから、誰にも知られることはない。
絶対に大丈夫。
そう、思っていた。依織が六年交際していた男と別れた後、私はしばらく依織は恋なんてしないだろうと思っていた。
男に裏切られ傷付いている中で、自ら新しい恋を求めようとする子ではない。
臆病な面があることを、私は知っている。
だから、少し油断していたのだ。
まさか、甲斐がこんなに早く行動に移すとは思っていなかった。
依織と甲斐の間に何かがあったと悟ったのは、依織と二人で定山渓まで日帰り温泉に行った日のことだ。
温泉に浸かる依織の肌に、赤い痣が散っていることに気が付いた。
すぐにそれがキスマークだとわかったけれど、その瞬間私の脳裏には二人の男の顔が浮かんだ。
依織の元カレと、甲斐。
どちらかに違いない。
しつこく誰に付けられたのか問い詰めると、依織は頬を赤らめながら甲斐と関係を持ったことを白状した。
私は、精一杯平常心を装い、笑顔で甲斐と結ばれたことを祝福した。
いつかこんな日が訪れるかもしれないとは予感していたけれど、展開が早すぎる。
甲斐に対して恋愛感情はないと依織はハッキリ言ったけれど、そんなものは今だけだ。
その内、依織は甲斐に惹かれていく。
私は、うまく笑えていただろうか。
その日の夜。
依織の家に泊まることになり、私は気を取り直して意気揚々としていた。
今夜は依織を独り占め出来る。
ただ、そばにいられるだけでいい。
依織の家に行く前にお酒やつまみなどを買うために、コンビニに立ち寄り私はトイレに入った。
そしてすぐに店内に戻ると、依織が私の知らない男性と話している姿が目に映った。
こんな所でナンパか?と一瞬警戒したけれど、依織の表情を見れば初めて会った相手ではないのだとすぐにわかった。
「お待たせー……依織の知り合いですか?」
メガネに上質なスーツ。
無駄に整った顔立ち。
その着こなしや佇まいから、彼がモテる男なのだということは十分過ぎるくらい伝わってきた。
「七瀬さんが勤めている眼科でお世話になっています。久我といいます」
「どうも。依織の友人の桜崎です。私もあの病院で看護師やってるんですよ」
「そうなんですか」
にこやかな微笑みが、どこか嘘っぽいと思ってしまうのは私だけだろうか。
「この間、七瀬さんにこのメガネ調整してもらったんです。おかげで本当に見えやすくなって助かってます」
「へぇ、そうなんですか。それは良かったですね」
正直、彼の発言などどうでも良かった。ハッキリ言って、外見は甲斐よりも男前だと思う。
むしろ、最近見かけた男の中では抜群にモテるタイプだろう。
彼は依織に好意を抱いている。
一瞬でそう感じてしまった私は、初対面の日から彼のことを要注意人物として覚えるようになった。
久我巧と二度目に会ったのは、六月初旬の金曜日。
偶然再開したその場所は、私が一人で飲みたいときに利用する、すすきのにある立呑み屋だった。
その日私は仕事が休みで、家でゆっくり昼まで寝た後、久し振りにエステに行こうと計画していた。
けれどその計画は、午前九時に鳴った電話で見事に崩れてしまったのだ。
「……もしもし」
「蘭、やっと電話に出てくれた。その声、どうしたの?寝起き?」
「……今日は仕事休みだから寝てたけど、どうしたの?」
電話は母からだった。
私の実家は札幌市内にあるが、普段仕事で日勤と夜勤を繰り返している私は、もうしばらく実家には帰れずにいた。
「あんた、たまには顔見せに帰ってきなさいよ。同じ市内に住んでるのに、全然帰ってこないじゃないの」
「あーはいはい。今度暇になったら帰るから」
「そう言って帰ってこないつもりでしょう。蘭に渡したいものがあるから、今日はランチに付き合ってもらうわよ」
「は?ランチ?」
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