｢それ……本当に言うたん？｣

｢あぁ，俺と有朋が話聞いちょったんやけど……。｣

｢そうか。……そうか。｣

入江は衝撃で言葉が出なかった。真っ白な頭で三津ならどんな行動を取るかを考えたが，何も思い浮かばなかった。

関係が終わる。それだけが浮かんだ。

｢元周様のとこで気が紛れて，誤解も解いたら元に戻ると思う。｣

そんなに落ち込むなと肩を叩いた。入江は力なく頷いてまた視線を海へ向けた。

｢……ちょっと行ってくる。｣

入江はすぐに馬に跨って勝山城へ向かった。すぐに門番に元周に取り次いで欲しいと頼み，そわそわしながらその場で待った。

｢参謀が来ちょる？通してやれ。｣

元周はすぐに許可を出したが三津がそれを阻止した。

｢お待ちください。その必要はございません。帰るようにお伝え下さい。｣

｢どうした松子。｣

三津がそう言うとは思わなくて元周は頬杖をついてじっと三津を見た。

｢彼はまた私の傍を離れました。私に何も告げずに一日。なので従者失格です。｣

｢随分と厳しいな。｣

三津の表情からして本心ではないのは明らかだ。何にせよ二人の問題に口出しする気はない。

｢……黙って離れた参謀も参謀だが理由も告げずに突き放すお前もお前だ。そんな顔のお前と居てもつまらん。今日は参謀と帰れ。｣

三津は深く頭を下げてから屋敷を出た。

元周に取り次いでくれと頼んだのに三津が出て来たから入江は戸惑った。まだ心の準備が出来てない。

｢三津……話がしたい。｣

三津は目も合わせず静かに頷いた。こっちも話す事があると小声で言った。三津と目が合わないのがより不安を煽った。

入江は三津を馬に乗せると屯所とは全く逆方向へ馬を走らせた。

｢え！？どこ行くん！？こっちちゃうよね！？｣

来た道とは真逆の方へ，しかもなかなかの速度で走っている。三津はぎゅっと目を瞑って振り落とされそうな恐怖と戦った。

やがて速度が緩やかになり目を開くと全くどこか分からない林の中に居た。

｢えっどこ……。｣

｢分からん。｣

入江は馬から降りて両手を伸ばし三津も下ろした。

｢ごめん三津連れて逃げたくなった……。昨日の件は誤解や女将とは何もない。お願い，傍におらせて。離れんで。｣

入江は三津を抱きしめて一緒がいいと何度も言った。

｢じゃあ何で黙っておらんくなったんですか？｣

｢うん……。その……三津のアレが気持ち良すぎて自制が……。｣

恥ずかしいと消え入りそうな声で本当の事を話した。それには三津の顔も真っ赤で熱くなった。やっぱり自分のせいではあったが理由が違い過ぎた。

｢三津の顔見たら思い出してもて抑えられんくなるけぇどうにか落ち着かせようと……。｣

｢物足りんくて誰か抱きに行ったんやなくて？｣

｢ない！絶対ない！疑わんで……。｣

三津に信じてもらえないのがどれだけ精神的に辛いのかを必死に伝えようとした。

三津は何があっても信じてくれると思ったのに疑われたので心が折れた。

｢すみません，男の人は本能的に子孫を遺そうとするように出来てるって聞いたから。好きでもない相手を抱けるって山縣さんの話に妙に納得して……。｣

｢元凶あいつか。｣

一瞬で山縣に殺意が湧いたが，山縣を責めるのは違うなと溜息をついた。

｢昨日私がおらんから有朋がおってくれたんやもんな……。｣

｢私が余計な事したんが悪かったですね……。あれから考えたんですけど，私にはこの関係続けるのは無理やって思いました。｣

『あぁ，三津の話はやっぱり別れを告げる為の……。』

｢嫌じゃ。離れたくない。｣